認知症の親が行方不明に。生きて見つかるかは"最初の3日"で決まる──データと備えの全知識
- 19 時間前
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ある朝、隣の部屋がもぬけの殻だった。
玄関の鍵は開いたまま。靴はない。財布は置きっぱなし。スマホも枕元に残っている。連絡の取りようがない。認知症の親と暮らしている家族にとって、これは「まさか」ではなく、いつか来るかもしれない朝です。
2025年、認知症やその疑いで行方不明になったと警察に届け出があった人は、全国で1万7,345人。1日に換算すると約47人が、どこかで姿を消しています。
ただし、この数字には救いもあります。警察庁の統計では、届け出から3日以内に94.8%の人が生きた状態で見つかっています。裏を返せば、最初の3日間にどれだけ速く動けるかが、文字どおり命を分けるということです。
この記事では、「もし明日、うちの親がいなくなったら」という視点で、知っておくべきデータ・すぐやるべきこと・今日からできる備えをまとめました。
94.8%は3日以内に生きて見つかっている
まず、数字を見ておきましょう。2025年中に所在確認・死亡確認がなされた認知症行方不明者は16,729人。そのうち、届け出の受理から3日以内に生存した状態で見つかった人は15,856人で、全体の94.8%にのぼります。
もう少し詳しく見ると、最も多いのは届け出当日の発見で、11,369人が生きたまま見つかっています。 つまり、届け出をしたその日のうちに約68%が保護されているのです。
一方、4日以降になると状況は大きく変わります。4日目以降に発見された人のうち、生存が確認されたのは53.7%。ほぼ半数が、すでに亡くなっていました。さらに15日を過ぎると、死亡確認の割合の方が高くなります。
⚠ つまり「3日」が分かれ目東京都健康長寿医療センターの研究でも、行方不明から翌日までは生存発見が多いものの、3日目以降は生存の可能性が急激に低下することが示されています。「もう少し待てば帰ってくるかも」という判断が、取り返しのつかない時間を生んでしまうことがあります。
亡くなった人の約8割は「5km圏内」で見つかっている

「行方不明」と聞くと、遠くへ行ってしまったイメージを持つかもしれません。でも実態は違います。
2024年の警察庁統計では、認知症の行方不明者で死亡が確認された491人のうち、77.8%にあたる382人が、行方不明になった場所から5km圏内で見つかっています。5km超から50km圏内は93人、50kmを超えていたのは15人でした。
つまり、遠くに行ったから見つからないのではなく、近くにいるのに見つけられないまま時間が過ぎてしまうのです。
死亡が確認された場所で最も多かったのは河川・河川敷(115人)で、次いで用水路・側溝(79人)、山林(71人)。この3つで全体の54%を占めます。水辺への転落や、足を踏み入れた山林からの脱出困難が、直接の原因になっていると考えられます。
⚠ 家の周り5km圏内にある水辺・山林に心当たりはありませんかもし自宅の近くに川や水路、山林があるなら、行方不明になったときに真っ先に確認すべき場所です。「近くにいるはず」という直感は、データが裏づけています。
認知症の家族が行方不明になったらすぐやること
110番に電話する:行方不明者届は、家族・親族のほか、後見人、同居者、施設の監護者、福祉事務所の職員なども届け出ることができます。「認知症の親がいなくなった」と伝えれば、警察は捜索を開始します。ためらう必要はありません。
最後に見た場所・時間・服装を整理する:警察に伝える情報の正確さが、捜索のスピードを左右します。玄関の靴を確認する、自宅の防犯カメラや近隣の映像をチェックするなど、手がかりを集めてください。
自治体のSOSネットワークに連絡する:事前登録している場合は、協力事業者やサポーターに一斉メール配信される仕組みです(名称や仕組みは自治体によって異なります)。登録していない場合でも、地域包括支援センターに連絡すれば対応してもらえることがあります。
GPS機器の位置を確認する:持たせている場合は、まずそれを見てください。警察庁の統計では、GPS機器等の活用で発見された139人のうち、84.9%にあたる118人が届け出当日に生存確認されています。
家族だけで探し続けないこと
2025年の統計で、発見のきっかけとして最も多かったのは「民間通報」(47.0%)でした。半数近くが、地域の人や協力機関の目によって見つかっているのです。家族が一人で歩き回るより、早く多くの目を動かすことが、生きて見つかる確率を上げます。
今日からできる5つの備え

行方不明は、起きてからの対応だけでなく、起きる前の備えが結果を大きく変えます。特別なことは必要ありません。
①自治体のSOSネットワークに事前登録する:氏名・住所・特徴・写真を登録しておくと、行方不明時に協力者へ即座に情報が配信されます。登録は無料の自治体が多いですが、仕組みや名称は地域によって異なります。お住まいの市区町村の高齢者福祉担当課、または地域包括支援センターに問い合わせてください。
②GPS機器や紛失防止タグを持たせる:靴のインソールに入れるタイプ、お守り型、キーホルダー型などがあります。GPS機器等による発見の84.9%が当日中だったことを考えると、効果は明らかです。自治体によっては購入費用の助成もあります。「○○市 GPS 認知症 助成」で検索してみてください。
③最近の顔写真を用意しておく:行方不明の捜索で最も役立つのは、直近の写真です。「この人を見ませんでしたか」と配信するとき、半年以上前の写真では伝わりません。季節が変わるたびに1枚撮っておく習慣をつけましょう。
④服や持ち物に名前と連絡先を入れる:保護されたときの身元確認が格段に早くなります。見守りシール(QRコード付き)を配布している自治体もあります。
⑤「出かける前のルーティン」を作る:鍵の場所、靴の出し入れ、声かけの仕組みなど、外出のハードルを上げすぎず、でも気づける仕掛けを日常に組み込む。玄関にセンサーチャイムを置くだけでも違います。
まとめ
2025年、認知症で行方不明になった人は全国で1万7,345人。1日約47人が姿を消しています。
届け出から3日以内に94.8%が生きた状態で発見されています。4日目以降は生存率がほぼ半分に落ちます。
亡くなった人の約78%は、行方不明になった場所から5km圏内で見つかっています。遠くではなく、すぐ近くで見つけられないまま時間が過ぎています。
迷ったらすぐ110番。発見の約半数は地域の人からの通報がきっかけです。
SOSネットワークの事前登録、GPS機器、最近の写真の準備が、いざというときの数時間を縮めます。
「うちの親に限って」と思いたい気持ちはあります。でも、年間1万7千人のご家族も、きっとそう思っていたはずです。備えは、不安を認めることではなく、親を守るためにできる最初の一歩です。
参考・参照情報
警察庁:令和7年における行方不明者届受理等の状況(令和8年6月公表)(認知症行方不明者数、発見までの期間、GPS機器等の有効性、発見の端緒)
警察庁:令和5年における行方不明者の状況
兵庫県警察:行方不明者届は、誰が届け出ればよいのですか?(届出人の範囲)
e-Gov法令検索:行方不明者発見活動に関する規則(平成21年国家公安委員会規則第13号)(第6条:届出人の法定範囲)
東京都健康長寿医療センター研究所:認知症による行方不明─いのちを守るために必要なこと─(死亡関連要因の研究、3日目以降の生存率低下、死因の分析)
兵庫県:認知症高齢者等の見守り・SOSネットワークについて(ネットワークの仕組み・構成機関の例)
横浜市:認知症高齢者等SOSネットワーク(事前登録・見守りシール)
福岡市:認知症の人の見守りネットワーク事業(捜してメール・捜索システム)
※本記事は2026年7月時点の情報をもとに、警察庁「令和7年における行方不明者届受理等の状況」(令和8年6月25日公表)および東京都健康長寿医療センター研究所の研究成果を確認して作成しています。統計の数値は届け出があった人の数であり、届け出がなされていない事例は含まれていません。GPS機器等の助成制度や見守りネットワークの仕組みは自治体によって異なります。具体的な制度についてはお住まいの市区町村の高齢者福祉担当課、地域包括支援センター、または担当のケアマネジャーにご確認ください。
