親がエアコンをつけてくれない…高齢者の室内熱中症を防ぐ「説得より仕組み」の対策ガイド
- 19 時間前
- 読了時間: 9分

「エアコンつけてね」と電話するたびに返ってくるのは、「大丈夫、風が通るから」「電気代がもったいない」という言葉。電話を切ったあと、なんとも言えないモヤモヤが胸に残る——そんな経験、ありませんか?
実はこの悩み、あなただけではありません。高齢の親を持つ多くの家族が、毎年夏になると同じ壁にぶつかっています。
そして、この問題は命に関わります。総務省消防庁のデータによると、2025年の夏(5〜9月)に熱中症で救急搬送された人は全国で約10万人(過去最多)。そのうち約6割が65歳以上の高齢者で、発生場所は「住居」が最多でした。2025年夏の東京都23区のデータでは、屋内での熱中症死亡者のうち約85%がエアコンを使っていなかった(未設置を含む)ことがわかっています。
この記事では、高齢者が熱中症になりやすい理由から、エアコンを嫌がる親への具体的な対策、いざというときに使える制度まで、幅広くお伝えします。「今年こそ、親を守りたい」と思っている方に読んでいただきたい内容です。
なぜ高齢者は熱中症になりやすいのか
「うちの親はまだ元気だし」と思っていても、体の中では確実に変化が起きています。高齢者が熱中症にかかりやすいのは、主に次のような理由からです。
高齢者の体に起きている3つの変化
暑さを感じにくくなる:加齢で温度のセンサー機能が低下し、室温が30℃を超えていても「暑くない」と感じることがあります。本人の感覚を信じて対策が遅れるのが、最も危険なパターンです。
汗をかきにくくなる:体温調節の要である発汗機能が衰え、体内に熱がこもりやすくなります。若い頃のように「汗で暑さをしのぐ」ことが難しくなっています。
体内の水分が少ない:高齢者は若い世代より体内の水分量がもともと少なく、少しの脱水でも体調を崩しやすい状態です。加えて、のどの渇きを感じにくいため、水分補給が遅れがちです。
つまり、高齢者の「暑くない」は体の感覚がそう感じているだけで、実際には熱中症の危険が迫っているということ。厚生労働省の人口動態統計によると、熱中症で亡くなった方の約8割は65歳以上です(2023年は83%)。しかもその多くが自宅の中で起きています。
⚠ ここが大切
利尿薬やSGLT2阻害薬など、脱水を促しやすい薬を服用している方は、さらにリスクが高まります。持病のある親御さんの場合は、夏の水分量や薬の調整について、かかりつけ医に相談しておくと安心です。
高齢者の親がエアコンを嫌がる5つの理由
何度お願いしても聞いてくれないのは、決して頑固だからだけではありません。背景を理解すると、対策のとり方も変わってきます。
理由① 暑さを感じにくくなっている
前のセクションでも触れたとおり、加齢で温度センサーが鈍くなり、室温が上がっていても「暑くない」と本当に感じています。嘘をついているわけではなく、体が暑さに気づけないのです。
理由② 電気代が心配
年金暮らしの親御さんにとって、電気代は切実な問題です。「もったいない」という気持ちの裏には、限られた収入への不安があります。実際には、6畳用エアコンを28℃設定で1日つけっぱなしにしても、電気代は月1万円前後(機種や地域で変動します)。一方、熱中症で入院すれば数万円〜数十万円の医療費がかかります。
理由③ 冷たい風が体に合わない
直接風が当たると体が冷えすぎて不快、という方は多いです。関節痛がある方は特に「冷房は体によくない」と強く思い込んでいるケースも。風向きの調整や間接的に冷やす工夫が必要です。
理由④ 昔の習慣が抜けない
今の高齢者が若い頃は、一般家庭にエアコンが普及していませんでした(家庭のエアコン普及率が50%を超えたのは1980年代半ば)。「窓を開ければ涼しい」「うちわと麦茶で過ごすもの」という感覚がしみ込んでいて、簡単には変わりません。しかし、近年の夏は最高気温40℃以上の日を「酷暑日」と気象庁が正式に定めたほど、昔とはまったく別物の暑さです。
理由⑤ リモコン操作がわからない
意外と多いのが、リモコンの操作がわからなくてエアコンを使えないケース。冷房にしたいのに暖房になっていた、という事故も実際に起きています。認知症が進んでいる方の場合は特に注意が必要です。

「説得」より「仕組み」で守る ── 今日からできる対策
何年も染みついた習慣や価値観を、言葉だけで変えるのは至難の業です。大切なのは、「説得」から「環境づくり」に発想を切り替えること。親御さんが意識しなくても安全に過ごせる仕組みを整えていきましょう。
対策① 室温計・湿度計を目につく場所に置く
体感に頼らず、数字で室内の状況がわかるようにします。大きな文字のデジタル温湿度計を、よくいる場所の壁やテーブルに設置しましょう。「28℃を超えたらエアコンをつける」とルール化するだけで、感覚の問題を回避できます。環境省も、室温28℃以下・湿度70%未満を目安にしています。
対策② エアコンを「つけっぱなし」にする
オンオフを繰り返すより、28℃の自動運転でつけっぱなしにするほうが室温が安定し、節電効果も期待できます。風向きを上や壁に向けて直接体に当たらないように設定すれば、冷えが苦手な方の抵抗感も減らせます。
対策③ リモコンをシンプルにする
使わないボタンにマスキングテープを貼って、「冷房」と「電源」だけが見えるようにする方法があります。設定温度も28℃にあわせておき、変えなくて済む状態にしましょう。最近のエアコンには、スマートフォンで遠隔操作できる機種もあります。離れて暮らしている方は、遠隔でオンにできる環境を整えておくと安心です。
対策④ 水分補給の仕組みをつくる
のどの渇きを感じにくい高齢者には、「のどが渇いたら飲む」では間に合いません。起床時・毎食時・10時・15時・就寝前の計7回、コップ1杯(約200mL)を飲む習慣をつくるのが理想です。経口補水液やゼリー飲料を手元に常備しておくのも効果的。飲み込みが心配な方にはとろみをつけた水分やゼリータイプがおすすめです。
⚠ 持病がある方は注意
心臓病や腎臓病がある方は、水分・塩分の摂りすぎが体に負担をかける場合があります。経口補水液やスポーツドリンクを常備する前に、かかりつけ医や薬剤師に「夏の水分の摂り方」を確認しておきましょう。
対策⑤ 周囲の人から繰り返し伝えてもらう
子どもの言うことは聞かなくても、かかりつけ医・ケアマネジャー・ヘルパーさん・お孫さんの言葉なら受け入れてくれるケースがあります。主治医に「エアコンをつけっぱなしにしてください」と書いたメモを処方してもらい、冷蔵庫に貼っておくという方法も有効です。伝え方は、「エアコンをつけないとダメ」ではなく「いつまでも元気でいてほしいから、エアコンをつけてほしい」というポジティブな言い方がポイントです。
いざというときの対応と、使える制度・サービス
どんなに対策をしていても、万が一のことはあります。緊急時の判断と、頼れる制度を知っておきましょう。
こんな症状が出たらすぐ対応を
熱中症のサイン
軽度:めまい、立ちくらみ、足がつる、大量の汗
中等度:頭痛、吐き気、だるさ、力が入らない
重度:意識がもうろうとする、呼びかけに反応しない、けいれん → すぐに119番
「なんだかいつもと様子が違う」「口の中が乾いている」「尿の色がいつもより濃い」といった小さなサインも見逃さないようにしましょう。高齢者は症状がはっきり出る前に重症化していることがあります。
クーリングシェルターを知っていますか?
2024年から、「熱中症特別警戒アラート」が発表された際に自治体が開放する冷房施設「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」の運用が始まっています。
2026年5月時点で、全国1,206以上の市区町村が施設を指定済みです。公民館や図書館など、誰でも無料で利用できます。自宅にエアコンがない・使えない場合の「避難先」として、お住まいの自治体のホームページで場所を確認しておくと安心です。
介護サービスの活用
離れて暮らしていて心配な場合、介護サービスの利用も検討してみてください。たとえば、訪問介護サービスの回数を夏場だけ増やして、日中に水分補給の見守りやエアコンの確認をしてもらう方法があります。猛暑が続く時期だけショートステイを利用し、空調管理された施設で過ごしてもらうのも確実な対策のひとつです。まずはケアマネジャーか、お住まいの地域包括支援センターに相談してみましょう。
また、自治体によってはエアコン購入の補助金制度があるところもあります。「エアコンが古くて効きが悪い」「そもそもエアコンがない」という場合は、お住まいの自治体の窓口に確認してみてください。

まとめ:「親を守りたい」その気持ちが、いちばんの対策です
親がエアコンを使ってくれない問題は、「言い方」を変えるだけでは解決しないことがほとんどです。大事なのは、説得するより、安全な環境を仕組みとして整えること。そして、ひとりで抱え込まず、医師やケアマネジャー、地域のサービスに頼ること。
この記事のまとめ
高齢者は暑さ・渇きを感じにくく、熱中症死亡者の約8割は65歳以上。発生場所は自宅が最多
エアコンを嫌がる理由は「体感の変化」「電気代」「昔の習慣」「冷え」「操作の難しさ」の5つ
「説得」より「仕組みづくり」が効く。温湿度計の設置、つけっぱなし運転、リモコンの簡素化
水分は1日7回・コップ1杯ずつが目安。持病がある方は医師に相談を
クーリングシェルター、訪問介護の増回、ショートステイなど「頼れる先」を夏前に確認しておく
この記事を読んで「うちもやらなきゃ」と思ったら、まずはひとつ、今日できることから始めてみてください。温湿度計を買うだけでも、経口補水液を送るだけでも、それは立派な第一歩です。
※本記事は2026年8月時点の情報をもとに作成しています。統計データは総務省消防庁・厚生労働省・環境省の公表資料に基づいています。制度や支援内容は自治体により異なり、今後変わる可能性もあります。具体的な手続きやご家庭の状況については、お住まいの自治体の窓口やかかりつけ医、ケアマネジャーにご相談ください。
📋 参考・参照情報
【総務省消防庁】 熱中症情報(令和8年・令和7年の救急搬送状況)
【厚生労働省】 熱中症による死亡数 人口動態統計(確定数)
【厚生労働省】 熱中症関連情報(高齢者の見守り・声かけ等)
【環境省】 指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)一覧
【政府広報オンライン】 熱中症特別警戒アラートとは?発表時の対策と熱中症予防のポイント
【環境省】 熱中症環境保健マニュアル(水分補給の目安等)※要確認(公式サイトでご確認ください)
※掲載情報は執筆時点のものです。制度・数値は改定される場合がありますので、最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。



